浦和地方裁判所 平成7年(ワ)505号 判決 1996年11月22日
原告
株式会社安藤製作所
右代表者代表取締役
安藤俊之
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
稲葉泰彦
同
神保国男
被告
ジェイ・ピー三十六株式会社
右代表者代表取締役
林富雄
右訴訟代理人弁護士
清水三七雄
同
西村國彦
右西村國彦訴訟復代理人弁護士
泊昌之
主文
一 被告は、原告らに対し、各二五一五万円ずつ及びこれらに対する平成七年一月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文と同旨
第二 事案の概要
本件は、被告が建設工事中のゴルフ場に関し各ゴルフ会員契約を締結した原告らが、ゴルフ場のオープンの遅れによる右各契約の解除に基づく原状回復請求権に基づき、支払済みの入会金・預託金等の返還を求めた事案である。
一 前提事実(争いがある点は、各項末尾掲記の証拠により認定した。)
1 被告は、ゴルフ場の建設、企画及び経営等を業とする会社であるが、宇都宮市内の約一〇八万平方メートルの土地に「ジェイアンドピーゴルフクラブジャパン」という名称のゴルフ場(一八ホール、パー七二、七〇四三ヤード。以下「本件ゴルフ場」という。)を建設する計画を立て、用地取得のうえ開発許認可を得て、平成二年一〇月ころ、建設工事に着手するとともに、会員募集を開始した。
2 被告は、右募集開始に当たり、入会金五〇〇万円、預託金二〇〇〇万円を支払って本件ゴルフ場の会員となる正会員の最終募集定員を一三五〇人と設定し、入会金及び預託金の合計額の二割は募集等の経費に充て、その余の八割の一三五〇人分である二七〇億円をもって、土地代約一六〇億円、土木工事費六〇億円、クラブハウス建築費一五億円の合計二三五億円の開発資金を賄うことを計画した(乙二二、被告代表者)。
3 原告らは、右募集に応じ、被告に対し、平成二年一一月二〇日までに、それぞれ、入会金五〇〇万円及びその消費税一五万円、預託金二〇〇〇万円ずつを支払い、同日、被告との間に、被告が本件ゴルフ場を建設して原告らに使用させる旨の縁故正会員契約(以下「本件契約」という。)を、それぞれ締結したが、その際、本件ゴルフ場のオープン予定時期については、平成四年一〇月と表示された。
4 しかし、被告の正会員募集は、計画どおりには進まず、特に、平成三年六月以降は著しい不振に陥り、平成四年二月までに六一二人の正会員が募集されたに止まった(乙一六、二〇、二二、被告代表者)。
5 そして、被告は、本件ゴルフ場を、予定時期の平成四年一〇月になってもオープンさせることができなかったので、原告らを含む正会員に対し、同月、工事の進捗状況を説明するクラブニュースを配付したが、これには、進入道路計画の一部変更とこれに伴う工事の遅れが報告され、「本年秋のオープンは、大幅に遅れ来年秋コース完成を目標に工事進行に努める」と記載されていた(乙二七)。
6 しかし、本件ゴルフ場は、当初の予定時期から二年三か月も経過した平成七年一月になってもコース造成工事自体が未完成であり、近くオープンしうる予定も立っていなかった。
7 そこで、原告らは、被告に対し、平成七年一月一九日に到達した書面により、本件ゴルフ場のオープン遅延を理由として、本件契約を解除する旨の意思表示をし、同年三月二三日、本件訴訟を提起した。
8 本件ゴルフ場は、本件訴訟の口頭弁論終結時(平成八年九月六日)においても、クラブハウスの建築に着手されておらず、オープンに至っていない(弁論の全趣旨)。
二 主な争点
オープンの遅れを理由とする本件契約の解除の効力
(被告の主張)
1 被告が、本件契約締結時に表示されたオープン予定時期から二年三か月を経過しても、本件ゴルフ場をオープンすることができなかったことについては、(一)ないし(三)のとおり被告に責任があるとはいえない諸事情があり、かつ、(四)のとおり被告が本件ゴルフ場のオープンまでの間の代替措置をとっていることからすると、本件契約については、原告らの解除を相当とするほどに著しいオープンの遅れがあるとはいえないというべきである。
(一) 地質上の問題の発生による造成工事の遅れ
被告がその造成工事に着手した後、本件ゴルフ場用地に広く粘盤岩地質(ベントナイト)が分布していることが判明した。そして、ベントナイトは、地面が乾いていると非常に堅硬であるが、雨が降ると極めて粘性度が高くなるという性質を有するため、本件ゴルフ場造成工事は、平成三年七月から一一月にかけての長雨と相まって難渋し、完成が遅れることとなった。
(二) 進入道路の変更を命ずる行政指導の発令による工事の遅れ
造成工事着手後の平成三年から同四年にかけて、被告は、所轄の宇都宮東警察署から、当初予定されていた本件ゴルフ場への進入道路と市道との接点の形態につき、円滑な交通ひいては交通安全上問題があるとして、その形態を変更するようにとの行政指導を受けたが、結局これを受け入れざるを得ず、その形態変更のため、進入道路建設地付近の関連土地を対象とする土地改良事業を行わせることが必要となった。そして、関連土地所有者との話合い等に時間を要した結果、平成五年五月三一日に、進入道路の舗装工事が完了した。ところが、この進入道路は、工事用道路にも予定されていたため、調整池の工事が遅れ、合計六ホールの造成工事も遅れることになった。
(三) 経済環境の激変等による資金不足
被告は、前提事実2のとおり正会員一三五〇人を募集して総額二七〇億円の開発資金をつくり、これにより約二三五億円のゴルフ場建設費用を賄う計画であったが、右計画は、募集開始当時の経済情勢からすれば、十分実現可能なものであり、当初は、右会員募集も順調であったのであるが、その後、バブル経済崩壊や平成三年秋に発生した茨城カントリークラブ事件等の影響により、ゴルフ会員権相場が長期にわたり低迷することになった。本件ゴルフ場の会員募集も、平成三年秋以降、不振を極めることになり、結局、募集することができた会員は六一二名であって、これにより集められた資金は総額一二二億円余と、当初予定金額に大きく及ばない結果となった。しかし、被告は、そのような状況下で、着実に造成工事を継続し、関連グループ各社の総力を挙げて、本件ゴルフ場建設に努力している。すなわち、被告関連グループは、平成七年一〇月まで、株式会社武蔵総合スポーツランドが開発を担当したウィルソンゴルフクラブジャパン鶴ヶ島コース(以下「鶴ヶ島コース」という。)の完成に重点を置いてきたが、その後は、本件ゴルフ場の完成に全力を挙げる態勢となった。それでも、会員募集不振による資金不足による大きな影響は避けがたく、本件ゴルフ場造成工事が遅れ、オープンの遅延にも繋がった。
(四) 充分な代替措置の提供
被告は、本件ゴルフ場オープンの遅れにつき、会員への代替措置として、グループ企業の経営するウィルソン・ロイヤル・ゴルフクラブやさとコース(茨城県新治郡八郷町所在。以下「やさとコース」という。)、ウィルソン・ロイヤル・ゴルフクラブましこコース(栃木県芳賀郡益子町所在。以下「ましこコース」という。)、ウィルソン・ゴルフクラブ・ジャパンいわせコース(茨城県西茨城郡岩瀬町所在。以下「いわせコース」という。)の三ゴルフ場を、会員並みに利用する機会を提供してきた。ところで、ゴルフ場会員権の主たる権利内容は、施設利用の点にあるというべきであり、この意味で、対象ゴルフ場と同等の質を有し、同様の位置関係にあるゴルフ場を利用する機会が保障されれば、当事者の合理的意思にかなうものと考えられる。この点、右三ゴルフ場は、いずれも、質、位置関係の点で本件ゴルフ場に匹敵するものであり、したがって、本件で被告のとった代替措置は、債務の本旨に従った履行と評価してもよいものである。
2 また、被告は、関連グループ各社の支援を受け、資金面での不安を現在までにほぼ解消し、本件ゴルフ場は平成八年秋ころまでには、すべてのホールが完成し、間もなくオープンすることが間違いないところ、そもそも、ゴルフ場開発事業は、一般に、広大な用地と莫大な資金とを必要とする難事業であり、本件のような会員預託金制ゴルフ場にあっては、開発資金は、主として、多数の会員から集められた預託金で賄われることが予定されているから、何らかの理由で一部の会員について解除を認めることは、事業全体を崩壊させかねず、他の会員の会員権は紙くずになりかねないのであって、この意味で、ゴルフ場開発事業は、集団的性格を有するのである。また、このような事業の性格は、一般に周知のことであり、会員になろうとする者は、リスクを認識したうえで、ゴルフ場開発事業に投資する者としての側面を有する。そうだとすれば、会員全体の利益を保護するため、口頭弁論終結時点において、ごく近い将来に確実にオープンが見込まれるような場合には、一部の者の解除を制限するのが妥当であるというべきであり、本件ゴルフ場が、間もなくオープンすることは間違いない以上、本件においても、会員全体の利益のために原告らの解除権は制限され、原告らの本件契約解除は効力が否定されるべきである。
(原告らの主張)
1 被告の主張1は争う。仮に、右(一)ないし(三)のような事情があったとしても、オープンの遅延につき被告の責任がないと見る余地はない。また、右(四)の他のコース利用の提供の詳細は知らないが、それらは会員に対する代替措置になるものではなく、それにより債務の本旨に従った履行があったとは到底いえない。
2 被告の主張2も争う。
三 証拠
<本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。>
第三 争点に対する判断
一 争点判断の前提について
ゴルフ場会員契約は、ゴルフ場を優先的あるいは継続的に利用することを目的とする契約であるから、利用対象となるゴルフ場のオープン時期は、一般に契約の重要な内容とみることができる。他方、ゴルフ場建設事業は、莫大な資金と広大な用地とを必要とし、用地買収や許認可の取得に始まり、その建設工事を進めてオープンに至るまでには、相当な長期間を要し、その間には、一般的にも、種々の事情変化が生ずることがありうるから、会員になろうとする者も、ゴルフ場のオープンが表示されている予定時期よりもある程度遅延することは、予見することができるものとみるべきである。したがって、その会員契約締結時に表示されたオープン予定時期にゴルフ場がオープンされないとしても、直ちにゴルフ場事業者側に右契約上の債務不履行があるとして契約を解除することができると解するのは相当ではなく、それが社会通念上相当として是認される程度を超えるような著しい遅延であると評価しうる場合において、初めて、債務不履行として契約の解除が可能になると解するのが相当である。もっとも、いかなる事情があれば右著しい遅延に当たるかは、事例毎に、個別に決せざるをえないところ、遅延に関する事情は一般的にはゴルフ場側がよく把握しているのに対し、会員側がこれを知ることは困難であるから、会員の側で、ゴルフ場のオープンが当初の予定時期より相当な程度に遅延したことを主張立証して解除を請求した場合には、公平上、その解除の効力を争うゴルフ場側で、それが社会通念上相当として是認される程度を超えるような著しい遅延に当たらない特段の事情があることを主張、立証すべきものと解するのが相当である。
そして、本件においては、原告らが契約を解除した時点では、既に被告が契約締結時にオープン予定時期として表示した平成四年一〇月からは二年三か月、予定時期が到来した後、被告が原告ら正会員に配付した「クラブニュース」で示したコース完成目標時期からも一年以上が経過し、しかも、オープンのめどもたっていなかったのであるから、オープンが相当な程度に遅延していたということができる。そこで、それが社会通念上相当として是認される程度を超えるような著しい遅延に当たらない特段の事情があるといえるかどうかについて、被告の主張1(一)ないし(四)に沿って、順次、判断を進める。
二 右特段の事情の有無の判断
1 遅延原因その一―用地の地質問題
証拠(乙二一ないし二三、証人宮澤史仁)によれば、被告が本件ゴルフ場建設工事に着手して以降、その用地内に、建設工事を困難にし、特に雨天にそれが顕著となるベントナイトという地質の部分が存在することが判明したこと、本件ゴルフ場付近では平成三年七月から一一月にかけて雨の日が多かったことが認められるが、他方、乙一号証(工事着手前に地質調査会社が行った本件ゴルフ場内の地質調査報告書)によれば、右報告書には本件ゴルフ場用地に広くベントナイトが分布しているという記述はないことが認められるのであり、そうであれば、本件ゴルフ場用地の地質にベントナイトが含まれていることが平成三年一一月ころまでの建設工事の進行に影響したものと推認することができるとしても、それ以降も、そのことが本件ゴルフ場建設工事を遅滞させる要因になった事実を推認するに足りないというべきであり、他に右事実を証するに足りる証拠はない。
2 遅延原因その二―進入道路の変更問題
証拠(乙二ないし一五、二一ないし二三、二七、証人宮澤史仁)によれば、当初計画された本件ゴルフ場への進入道路は、市道から入ると大きくカーブを切る形態となっていたところ、右進入道路付近の住民からの要請に基づき、所轄の宇都宮東警察署が、被告に対し、平成三年秋ころ、進入道路の位置を変更するよう行政指導を行ったこと、そこで、被告は、進入道路の位置を当初計画から変更し、変更後の進入道路用地に当たる農地を、その所有者に行わせた土地改良事業により非農地化したうえで平成五年五月三一日に道路舗装工事を完了させたこと、その進入道路の変更は、本件ゴルフ場の調整池の一部の工事、三つのホールの造成工事の進行に影響したこと、以上の各事実が認められる。
しかし、乙二三号証によれば、その計画への影響の仕方はともかく、ゴルフ場の建設工事の過程においても、行政官署からの行政指導により建設工事の進展が影響される事態は被告も予想することができたと認められる。しかも、乙二七号証(クラブニュース)によれば、被告は、平成四年一〇月以前に原告ら正会員に配付した右ニュースにおいて、土地改良事業による進入道路の変更につき、当初より便利な路線に変更して本件ゴルフ場のグレードを増すために行うと宣伝したうえ、工事の遅れはあったが、平成五年秋のコース完成を目標に工事を進行させると表明していることが認められるのであってみれば、進入道路の変更問題が、被告が主張するほどに工事全体の遅れに影響したものであるか、また、これが被告の責任に属さない問題であるといえるのかにつき、いずれも疑問の余地がある。しかも、少なくとも、平成五年秋を一年以上も経過した平成七年一月当時にも、いまだコース自体が完成せず、オープンのめどがたたない状態であった理由に関しては、進入道路の変更問題が生じたことで説明する余地はまったくない。
3 遅延原因その三―経済環境の変化による資金不足問題
被告は、正会員一三五〇人を募集してその預託金により総額二七〇億円の開発資金をつくり、これにより約二三五億円のゴルフ場建設費用を賄う計画であったが、正会員募集が計画どおりには進まず、特に、平成三年六月以降は著しい不振に陥り、平成四年二月までに六一二人の正会員が募集されたに止まり、以後、正会員は増加していない。
そして、正会員募集による預託金で開発資金のすべてを賄う計画である以上、募集しえた正会員数が計画の半分以下に止まったのであるから、それがゴルフ場の建設工事の進捗やそのオープンに影響したことを容易に推認することができる。
また、証拠(乙一六ないし一八、二〇、二二、被告代表者)によれば、右正会員募集の不振は、いわゆるバブル経済の崩壊や平成三年秋の茨城カントリークラブ事件の発覚等により、ゴルフ会員権相場が急落したことが影響したものであると認められ、前記のような計画に基づいて正会員募集を開始した平成二年一〇月当時、被告が、右のようなバブル経済の崩壊やこれに連動したゴルフ会員権相場の急落を容易には予測することができなかったのではないかとみる余地は大きい。
しかし、そもそも、これから建築工事を始めて、二年後に完成を予定するゴルフ場の二三五億円もの建設資金のすべてを、これから募集する正会員の預託金だけで賄おうという資金計画は、ほぼ計画どおりの正会員募集が確実に行えるとの前提にたつものであり、事業会社として多少とも冷静に判断する限りは、諸々の社会的、経済的要因の変動により挫折の危険性をもった計画であることは、予想しえたものとみることができる。
また、証拠(乙二〇、二三)によれば、本件ゴルフ場に関し、被告は会員募集を主に担当したが、具体的な開発については関連グループ企業の一社であるダイヤモンドゴルフ株式会社が担当したこと、平成七年一一月時点で被告の従業員は数名であり、被告の資金繰りは専らグループ企業からの援助に頼っていること、被告及びグループ企業は、平成七年一〇月まで、埼玉県内で関連会社名義で建設を進める、鶴ヶ島コースの完成に重点を置いて事業展開をしてきたことが認められる。そして、これらの事実からみると、被告及びグループ企業は、関連会社を一体とした経営を行っており、グループ間で、随時必要な資金を流用し、本件ゴルフ場の会員募集で集められた資金についても、鶴ヶ島コースの完成等、グループ企業運営のために使用されてきたものと推認することができる。また、乙二二号証によれば、鶴ヶ島コース以外にいわせコースも、本件ゴルフ場の会員募集開始以降、開発が進められたことが認められ、いわせコースについても、本件ゴルフ場の会員募集で集められた資金が、その完成のために使用されたことを推認することができる。
ところで、これらの事実を総合すれば、会員募集で集められた資金がグループ企業運営のために使用され、本件ゴルフ場オープンは先送りされてきたとみられるのであり、これがオープンの遅延に及ぼした影響を看過することはできないというべきである。
4 代替措置
証拠(甲六、乙二〇、二二、二四ないし二六、二八、被告代表者、原告前島盛一本人)によれば、被告側は、平成五年四月一日から、原告らを含めた本件ゴルフ場の正会員に対し、被告のグループ企業が経営するやさとコース、ましこコース、いわせコースの三ゴルフ場につき、それらのゴルフ場の会員と同等の立場でプレー及び予約等、施設利用の機会を与えてきたことが認められる。しかし、証拠(乙二四ないし二六)によれば、被告と各グループ企業との契約により、本件ゴルフ場がオープンしたときは、やさとコース、ましこコース、いわせコースの三ゴルフ場の会員も、本件ゴルフ場の会員が三ゴルフ場を利用しえたのと同等の期間、原告ら正会員と同等の立場で、本件ゴルフ場の施設利用の機会が保証されることが認められ、結果的に、本件ゴルフ場のオープン後、相当期間にわたり、三ゴルフ場の会員が、本件ゴルフ場を、原告ら正会員と同等の立場で利用することになるわけである。このことは、本件契約の内容の一方的変更ともいうべき事態であり、しかも、結局、本件ゴルフ場の会員は、自らの負担において、自らが利用したいと思って契約したゴルフ場とは場所も環境も異なる三ゴルフ場を利用する機会を得ているに過ぎないことを意味する。
そうだとすれば、本件ゴルフ場の会員が、三ゴルフ場の施設を利用する機会を有することをもって、被告が与えた便宜供与と評価しうるかどうかは疑問であり、これを、本件ゴルフ場オープン遅延に対する代替措置とみることも困難であって、まして、これをもって、被告が本件契約のゴルフ場施設を利用させる債務を本旨に従って履行していると評価する余地はない。
5 まとめ
以上で検討したとおり、被告がオープン遅延の原因として主張する各事実は、オープンが契約時に表示された予定時期より二年三か月も遅れた事情を説明するものではなく、その遅れが被告の責任とはいえないものと評価するには足りず、また、被告が主張する三ゴルフ場施設の利用の機会提供も代替措置として評価することはできないのであって、結局、本件ゴルフ場のオープンの遅れが、社会通念上相当として是認される程度を超えるような著しい遅延に当たらない特段の事情があると判断することはできない。したがって、この点から、原告らの本件契約解除の効力を否定することはできないというべきである。
三 集団的性格に基づく解除後の事情による解除権の制限論の成否
1 会員預託金制ゴルフ場にあっては、開発資金は、主として、多数の会員から集められた預託金で賄われることが予定されているのであり、被告の本件ゴルフ場開発事業もこれによるから、この事業がある側面では集団的性格を有するとみることができないでもなく、このような事業の特性からすれば、会員全体の利益を保護するために、ごく近い将来に確実にオープンが見込まれるような特別の場合には、一部の会員の会員契約解除によりオープン目前で事業が破綻することを避けるため、事後的に解除の効力を制限することも考えられないではない。
2 そして、証拠(証人宮澤史仁、被告代表者)によれば、被告は、原告らによる契約解除後も本件ゴルフ場建設工事を継続し、平成八年六月時点では、一八ホールのうち六ホールについて芝張工事までが完成しており、同年五月末にはクラブハウスの建築確認申請も行ったこと、被告は、同ハウスの建築工事に要する期間を六か月と予定していることが認められる。
3 しかし、平成八年九月六日の本件口頭弁論期日現在においても、右建築確認がなされたことを認めるに足りる証拠はないのであり、そうであれば、クラブハウスの完成に至るまでには、なお相当の期間を要するものと推認されるから、平成九年春には本件ゴルフ場がオープンする予定である旨の被告代表者の供述は、たやすく信用することができず、右供述と同旨の乙二二号証も同様であって、他に被告が平成九年春までに本件ゴルフ場をオープンすることができることを認めるに足りる証拠はない。
4 そうだとすれば、本件において、解除の効力の事後的な制限論あるいは、被告主張の解除権自体の制限論は、そもそもその前提を欠き、採用する余地がないというべきである。
四 結論
よって、原告らの解除により本件契約は終了したということができるから、その原状回復として、支払済みの入会金と消費税及び預託金の合計各二五一五万円ずつ及びこれらに対する支払日後である平成七年一月二〇日から支払済みまで商法所定の年六分の割合による利息の支払を求める原告らの各請求は、すべて理由がある。
(裁判長裁判官小林克巳 裁判官中野智明 裁判官堀禎男)